生殖医療

 我々は、日本生殖医学会専門医、臨床遺伝専門医や日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医等の資格を有する不妊治療に精通した専門医からなるグループで診療に従事しております。診療内容は、一般的な不妊検査・治療はもちろんのこと、高度生殖補助医療技術(体外受精)や着床前診断まで対応することが可能です。漢方薬を始め不妊症に関する各種サプリメントの情報提供も実施しております。体外受精の刺激法は血液検査のデータをもとに、ロング法、ショート法、GnRHアンタゴニスト法や、薬を一切使用しない完全自然周期法を使い分けております。また、子宮筋腫や子宮内膜症等の不妊症の原因となる疾患に対して手術が必要な場合にも、低侵襲で高度な先進的内視鏡手術を提供できるものと考えております。

当院での体外受精

 体外受精胚移植法(in vitro fertilization-embryo transfer : IVF-ET)とは、精子と卵子を体外で受精
させた後、その受精卵を子宮内に戻す方法です。要件を満たす患者様には保険適用になります。

目的

 妊娠を目的に行う不妊治療

適応

 日本産科婦人科学会のガイドラインにより体外受精以外の治療によっては妊娠の可能性が極めて低いと判断されるもの、および本法を施行することが、被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とします。
 具体的には、卵管性不妊症、男性不妊症、子宮内膜症性不妊症、原因不明の不妊症などです。

方法

 通常以下の治療段階を踏まえて行っております。

  • 調整卵巣刺激:卵子を採取するために卵巣を刺激します。
  • 採卵:排卵直前の卵子を卵巣内から採取します。
  • 媒精:培養液の卵子と精子を受精させます。
  • 胚移植:子宮内に受精卵を移植します。
  • 調整卵巣刺激法

 一般的には下記の方法があります。

1)GnRHアゴニスト法

 (a)ロング法:通常、月経前周期の黄体中期にGnRHアゴニストの点鼻薬の投与を開始します。GnRHアゴニスト製剤のダウンレギュレーションという現象を利用して早発LHサージを予防します。卵胞成熟が確認できればhCGを投与し採卵を行います。

 (b)ショート法:月経2、3日目からGnRHアゴニストの点鼻薬とhMG製剤を開始します。投与初期には性腺刺激ホルモンが大量に分泌(フレアアップ)される為、ショート法はその現象を利用して卵胞を短時間で育てる方法です。卵胞成熟が確認できればhCG製剤を投与し採卵を行います。

2)GnRHアンタゴニスト法:月経2、3日目からhMG製剤を開始し、主席卵胞が約14-16mmに達したらGnRHアンタゴニスト製剤を併用します。主席卵胞が十分発育して採卵可能な状態であれば採卵します。卵胞成熟が確認できればhCG製剤を投与し採卵を行います。

3)クロミフェン法:クロミフェンは視床下部のエストロゲン受容体に結合しエストロゲンのネガティブ・フィードバックを阻害することで視床下部からのGnRH分泌増加、下垂体からのFSH・LH分泌増加をおこし卵胞発育を促進します。月経2、3日目からクロミフェンを内服し、卵胞発育が確認できればhCG製剤またはGnRHアゴニストの点鼻薬を投与し採卵を行います。

4) クロミフェン+hMGまたはrFSH法:月経2、3日目からクロミフェンを内服し、途中でhMGまたはrFSH製剤で卵胞発育を刺激します。卵胞発育が確認できればhCG製剤またはGnRHアゴニストの点鼻薬を投与し採卵を行います。

5)自然周期法:月経3日目から排卵前まで薬を使用せず、卵胞成熟が確認できればhCG又はGnRHアンタゴニストを投与し採卵を行います。

6)レトロゾール周期法:月経3日目よりレトロゾールを内服し、主席卵胞の発育が確認できればhCG製剤またはGnRHアゴニストの点鼻薬を投与して約35時間後に採卵します。GnRHアゴニストの点鼻薬で排卵誘起し採卵します。

7)その他:エストロゲン補充法やランダムスタート法などありますが、それぞれの周期を組み合わせて、患者さんに最適な方法で採卵を行います。

  • 採卵

 採卵室で行います。当院では全身麻酔を行わず、局所麻酔を使用して経腟超音波を使用して卵巣から卵子を採取します。

 合併症

1)卵巣過剰刺激症候群:卵巣刺激剤や排卵誘発剤を使用することによって起こる可能性があります。過剰な数の卵胞が発育して卵巣過剰刺激症候群になると卵巣腫大、腹水や胸水の貯留などが起こり、重症時には血栓症、呼吸困難などの症状を引き起こします。

2)出血:採卵時、または採卵後に腹腔内、性器、膀胱、卵巣出血を引き起こすことがあります。状態によっては緊急手術が必要になる場合もあります。

3)感染症:採卵により腹腔内に細菌が入ることで子宮内や骨盤内に炎症を起こす事があります。発熱や下腹部痛が出現する場合があります。

4)麻酔薬に対するアレルギー反応:採卵の際に麻酔薬を用いた場合アレルギーを起こすことが稀にあります。発疹や喉の痒みなどが出現することがあります。

5)他臓器損傷:採卵時に穿刺することで、膀胱や腸を穿孔し損傷することもあります。

  • 媒精

 調整された運動精子を卵子が入った培養液に入れ、体外受精、顕微授精させる操作です。

1)体外受精 (conventional IVF)

 採取した卵子と精子を容器に入れ、受精させます。精子が自ら卵子に侵入することで受精が起こります。

2)顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic sperm injection)

 顕微鏡を用いて、極細のガラス管に精子を1個だけ吸引し、卵の細胞質内に注入します。別途説明、同意書があります。

3)スプリット法(体外受精、顕微授精を併用します)

 卵子と精子の受精を確認したのち、受精卵をさらに培養液の中で育て分割を確認します。採卵から2、3日培養して分割した胚は初期胚(分割胚)といい5,6日間培養し分割したものを胚盤胞といいます。これらの培養の結果、形態学的に正常に卵割・発育していると判断された胚のみを凍結あるいは子宮内腔への移植に用います。また、受精に至らなかった卵、受精したにもかかわらず正常に分割発育しなかった卵は、廃棄させていただきます。また精子、胚の培養中に災害(地震、火災など)などが起こった場合の卵子、精子、胚の損傷、紛失に関しては免責とさせて頂きます。

  • 胚移植

 受精卵を専用のカテーテルに少量の培養液とともに吸引し、経腟超音波を挿入し画面を見ながら、経腟的に受精卵を子宮に移植します。帰宅後は、通常の生活をしていたただいて差し支えありません。また、多胎を防ぐために、日本産科婦人科学会の会告(平成20年4月)により、生殖補助医療の胚移植において、移植する胚(受精卵)は原則として単一とすると定められています。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2個の胚移植を許容するとされています。そのため、余剰胚が生じることがあります。その場合、次回の治療のために胚の凍結保存ができます。胚の凍結に関しては、別途説明、同意書があります。

 また卵巣過剰刺激症候群などの異常がある場合、新鮮胚移植は行わず全胚凍結することになります。胚移植後は胚の着床促すために黄体ホルモンの薬剤の補充が必要となります。

 合併症

1)出血:移植時に出血を認めることがあります。

2)感染症:移植により子宮内に細菌が入ることで子宮内や骨盤内に炎症を起こす事があります。発熱や下腹部痛が出現する場合があります。

3)多胎妊娠:多胎妊娠となる可能性があります。

4)異所性妊娠:子宮外に着床し異所性妊娠となることがあります。場合によっては手術や薬剤治療が必要となる場合があります。

5)その他予期せぬ副作用

着床前診断について

1)重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査
(Preimplantation genetic testing for monogenic/single gene defects;PGT-M)

 受精卵から一部を生検し、遺伝子解析を行う技術として、日本国内では、重篤な遺伝性疾患児が出生する可能 性のある遺伝子変異または染色体異常を保因するご夫婦が対象となっています。また、実施要件として、日本産科婦人科学会や倫理委員会への申請ならびに承認が必要となっています。

2) 不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査

 着床前胚染色体異数性検査(Preimplantation genetic testing for aneuploidies;PGT-A)
 着床前染色体構造異常検査(Preimplantation genetic testing for structural rearrangements;PGT-SR)

 受精卵から一部を生検し、染色体解析を行う技術として、日本国内では、不妊症および不育症に悩む夫婦が,妊娠成立の可能性の向上が期待できるあるいは流産の回避につながる可能性がある手段の一つとして実施されています。また、検査する遺伝学的情報は,不妊症,不育症の発症に関わる染色体異数性および染色体構造異常に限られています。

 当施設は、認可施設として日本産科婦人科学会の承認が得られていますが、希望される場合は産婦人科外来または臨床遺伝科へご相談ください。

 希望される場合は産婦人科外来または遺伝カウンセリング室へご相談ください。

藤田医科大学病院 臨床遺伝科
TEL: 0562-93-2111(臨床遺伝科担当者まで)
http://info.fujita-hu.ac.jp/~genome/gc/

研究

【腟内microbiota解析】

 当科ではmicrobiotaとHPV感染にについて多くの知見を得、学術誌で報告してきました。

●腟内microbiotaとARTの関連の報告は2019年あたりからでているがエストラジオール値との関連の報告は皆無であり現在解析中です。

●腟内microbiotaと使用薬剤の関連を提示した報告は皆無です。

ARTにおける腟内microbiotaへの薬剤の影響を検討することで原因不明着床障害解明の検討をしています。

精液中のmicrobiota研究

 最近の研究によるとほとんどの正常な精液には細菌が含まれており、正常な精液サンプルの30%には、培養可能な明白な細菌が含まれている(Vilvanathan et al、2016、Zeyad et al、2018)。尿路病原体によって引き起こされる炎症と感染症は、不妊症に重要な役割を果たす。最も一般的な尿路病原体は精子形成不全に関連し、精子形成および受精に影響を与える可能性がある(Farsimadan and Motamedifar、2020)。膣微生物叢の腸内毒素症または病原体の侵入は、精子の運動性と活力を直接低下させることにより、人間の生殖能力を損なう可能性がある(Monga and Roberts、1994、Sellami et al、2014)。従って精液中のmicrobiotaを検討することは不妊症解明の一助になる可能性があり現在解析中です。